第16回全税共地域文化賞

黒沢田楽保存会(愛知県新城市)

黒沢は奥三河の東北部、静岡県境に接した山間の全戸数が7戸という集落で、林業と田畑で生計を立てています。この地に伝承されている黒沢田楽は、北設楽郡設楽町田峰の田楽、新城市鳳来寺の田楽と並んで三河の三田楽と称されています。

つるぎ舞など呪師系統の呪術芸、翁・三番叟などの猿楽系統の舞、さらに穀物の耕作のさまを問答や所作で模擬していく田遊び系統の芸能など36演目を次々に演じる黒沢田楽は、他の田楽祭にくらべ芸能種目の多彩豊富さ、耕作模擬が稲作より畑作に傾いていること、呪師芸に古色が見られることが特色です。

とりわけ評価されるのは、この多種多彩な芸能祭事をわずか7戸の家の男子が鍵取荻野家を中心に、今に維持継承してきた伝承に対する情熱と結束力の強さです。

人里離れた狭隘の山中の産物にも恵まれない土地で、伝統の祭祀と芸能を心の支えに懸命に生きてきた村人の心意気は様々な障害をも乗越え、近郷の村民や学校生徒達と共同で新たな田楽伝承の体制づくりを模索する機運をつくりました。

いま、少子高齢化・市町村合併などが地域文化の基礎を大きく揺り動かし、伝承の持続とその行方が日本全体で問われるとき、7戸9名の伝承者が必死に伝統継承に取組む黒沢田楽の過去と現在は大いに賞賛にあたいするものです。